2016年10月9日日曜日

20160809-02

その山はソフトクリームのような形をしていた。
うずまきのように頂上まで続いた山道と平行に川が流れており、山の裾野には中規模の港町と、海が広がっていた。
 山間の集落はこじんまりとしたもので、しかしとても平和だった。わたしたちはそこでつつましく暮らしていた。

いつもは穏やかな川は一夜にして脅威となる。台風のおかげであふれでた雨水はあっという間に山道を侵略し、車や、電柱や、家を押し流した。普段の凪からは想像もつかないような色ににごった海にはいつもの中州はすでになく、海と山の境目はなくなっていた。
山の頂上にある家まで早く帰らなければならない、家族が待っている。
わずかに残ったコンクリートの道を急ぐ。時折頭上から瓦礫が降ってきて、それをかわしながら進むのは至難の業だったが、なんとか家までたどり着き、家族と合流する。
ふと雨脚が弱まり、わたしは家族とともに海を見下ろす。曇り空なのに明るくて、押し流された港町がよく見えた。ところどころに残った頑丈であろう建物の屋上には数人の避難者がおり、みな一様に「お手上げです」とでもいうようにバンザイをしている。
海は透き通って水面はエメラルドブルーに輝いていて、わたしは「水が何もかもを押し流してきれいになったのだ」、と思う。
しかし、わたしは知っている。今は一瞬の凪であり、すぐにまた、むしろ先ほどよりもひどい嵐が来る。わたしたちはその前に、この家にとどまり続けるか、山を降りあの避難者たちに混ざるか、選ばなければならない。

0 件のコメント:

コメントを投稿