2013年6月13日木曜日

20130613-00

 戦後間もなく廃止されたはずのO窪の赤線は裏に潜って現在まで健在だった、わたしはO窪に何年か住んでいたことさえあるのに裏町の気配を感じたことはなかった。摘発された女達は今時の化粧と髪型をしており、「裏町」や「赤線」から想起されるような典型的な昔の娼婦を思い浮かべていたわたしは驚くと同時に、ああ、これは今現在起こっている話なのだと少し背筋を寒くする。
 夕方のニュース番組、TV画面に大写しにされたわたしよりも数年遅く生まれたであろう女は根本が黒くなった茶髪を後ろで一つにまとめていた。両腕を捜査員に捕まれながらも振り返り娼館に一礼をした、おそらくすっぴんであそうその女の横顔と後れ毛が余りに美しく、わたしのチャンネルを変えようとしていた手が止まる。紺の豹柄の甚平に興醒めするが女にはどこにも爛れがなく、背筋を伸ばした青白い顔の女よりもむしろ捜査員の方が俗物に映った。

 女達が連行されたのは留置所でも取調室でもなくだだっ広いグランドのような場所だった。砂埃が今にも舞いそうな乾いた地面に、等間隔で紺の豹柄の女が並ぶ。わたしが先程見惚れた女は画面右下、そのほかに品の悪そうな女が三人、計四人の紺がグランドに正方形を形作った。一体何が起こるのだろうと画面を見つめていると、白い柔道着の、見るからに屈強な人間が八人現れ四人の紺色に暴行を加え始めた。頭を一発殴ると左に一人ずれ腹に一撃、左にずれて股裂きからの殴打、左にずれて顔面を殴打。四人の男が雪山で遭難し、ロッジの四隅をグルグル回るという怖い話、あれを思い出しながらわたしはテレビを見つめ続けた。
 そのうち不思議なことに気付いた。白い柔道着の人間達も暴行される側に回ることがあるのだ。わたしが(その体の大きさから)男だとばかり思っていた白い人間の柔道着がはだけ膨らんだ乳房が露わになり、わたしは白も紺も全員が女だと知る。女達は涙と血を流しながらも規則正しくローテーションを組み誰かを殴り、殴られる。拘束されているわけでもないのだから逃げればいいのにと思うがもしかするとカメラに映らぬ部分に恐ろしい見張りがいるのかもしれない、しかしそれを差し引いてもあれだけの暴行を加え加えられてまだなお一糸乱れぬ流れと動きで殴り殴られ抵抗さえしない。
 腫れ上がる頬やねじ曲がった指、流れる血からも女達が全力で暴行に取り組んでいることがわかるからわたしはますます混乱する。恐らく彼女らの誰かがそろそろ事切れる、それでも狂乱は終わるまい。私刑にしても残酷過ぎるこれは恐らく正当な法の下の所業でそれゆえTVで放映されている。悪趣味なわたしもそろそろ耐えきれない状態になった白と紺を纏った肉片は未だ規則正しくぐるぐる回り、なのにわたしは目を逸らせない。

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