2014年11月30日日曜日

20141130-02

「吉田って言えばわかる」、吉田が日本に何人いるのか知らないのかこのおじさんって思ったけどめんどくさいから黙っておいた、社長に「吉田さんがよろしくって言ってました」って言ったら「あ、そうなの、あの人にはすごくお世話になったのよ」って言われたから黙っておいて正解だと思った。
「吉田って誰なんですか」って聞こうと思ったけど社長は「お世話になったのよ」と言ったきり吉田のおじさんについての話をしなかったからわざわざ聞くほどのことでもないと思ってわたしもそれ以上聞かなかった。吉田のおじさんが、例えば『日本で吉田といえばこのオッサン』というくらいすごい偉大な人であったとしても、わたしにとって吉田のおじさんはごはんをおごってくれるおじさんという以上の意味を持たなかった。

「あ、あんなところに六本木の駐車場が見えるんだね」って言われてもわたし六本木がどこにあるかわからなかったからそう言った。「六本木がどこにあるかわからない?」
「池袋は山手線の上にあるからわかる、東京も、品川も。山手線の丸の上にある駅は位置が分かりやすいからわかる、だけど六本木は山手線の中にあるのでしょう、丸の中にある駅は、丸のなかでぐっちゃになってしまって位置関係がわからない、なぜなら丸の中にあるから」
「そうか」言っておじさんは鰻を口に運んだから多分吉田のおじさんは六本木がどこにあるかわかってるのだなと思った。つまり吉田のおじさんは東京出身なのだ。東京出身者以外で、丸の中にある駅の位置関係がわかる人間などどこにもいない。
ごはんを食べてこのあとどうするか聞かれて時計を見たら昼の1時、あれわたし思いっきり遅刻じゃん、会社って何時から出勤だっけ6時だっけいやいやそれは退社時間だ出勤は9時とか10時とか11時とか、なんにせよ昼の1時に出勤していないのは遅刻だということに間違いはないってびっくりしておじさんに「遅刻」って言ったら「そうか」って言うからお前他人事だと思ってもっと焦ってくれよって思う、でもそこでふと「あれ今日何曜日だっけ」って気付く。携帯の画面をよく見たら『11月24日(日)』って書いてあった。「(日)!」
「おじさん今日日曜日だったんだけど、わたし休みじゃん」って言いながらおじさんなんで曜日感覚ないの仕事してないのってちょっと不思議になるけどまあわたしには関係ないかってまた思った。吉田のおじさんに関してわたしが関係あることなど一つもない、曜日感覚があってもなくても、あったほうがこういう時に便利かもしれないけど携帯の画面を見たら今日が何曜日かなんてすぐにわかるし、吉田のおじさんの曜日感覚なんてわたしにとってはその程度だ。
「わたし休みじゃん」と言ってしまったけどもう鰻も食べたしこれ以上今日の日におじさんと一緒にいる道理はないから家に帰ることにした、でも「鰻も食べたしこれ以上今日の日におじさんと一緒にいる道理はないから家に帰るね」とはいくらなんでも言うべきじゃないと思ったから「家でやらなきゃいけないレポートがある」と伝えて家に帰ることにした。同居人の麻子にまでおじさんは「よろしく言っておいて、吉田って言えばわかる」と言う。わたしと同い年でおじさんと何の関係もない麻子が吉田と言うだけでおじさんの顔を思い浮かべその上ヨロシクされてああありがとうございますと反応するとは思えなかったがわたしは家に帰って素直に「吉田がよろしくって言ってた」と麻子に伝えた。「ああ、吉田さん! そうなの」と反応した麻子にわたしは驚いたけれどああそうかわたしだけなのかな吉田を知らないのは、とようやく気付いた。六本木の位置を知らないのも、今日の日まで鰻を食べたことがなかったのも、吉田のおじさんが誰か知らないのも、全部全部わたしだけなのかと理解した。
一瞬ショックだと思ったけれど六本木には東京タワーが立っていることをわたしは知っているから万が一六本木に行かなければならない状況に陥っても東京タワーを目指して歩けばいいから不自由はない。今日まで鰻を食べたことがなかったとしても今日味わったし、 吉田のおじさんの素性をしらなくても吉田のおじさんはわたしにごはんを奢ってくれる、何も不便なことはないじゃないかと思い直した。ショックは、正しく受けるべき場面で受けるべき、吉田のおじさんに関連する事柄についてわたしがショックを受けるべきことなど一つもなかった。


次はモツ鍋を食べに行く。


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