2015年1月17日土曜日

20150117-01

「これ東京に向かってる!」という警官の叫びを裏付けるように眼前に多摩川が広がって、わたしはその幅広さにうんざりしながら列車を追う。新潟へ間もなく到着するはずだったこの列車がなにものかに乗っ取られてくるりと方向転換したのはほんの10分前、たった10分で新潟から二子玉川へ、早いにもほどがあるしありすぎる。

乗客の女子高生は二両目で古文、大学生は三両目で物理の講義の真っ最中。わたしも三両目を履修しないと単位を落としちゃうし、とりあえず列車を止めるよりも三両目に飛び乗って階段状になった教室で席を確保し、授業を受けることを優先することに決める。
多摩川にかかる長い橋の上でわたしは列車に追いついて飛び乗り、大学生の三両目に潜り込む。今日は先生が遅刻中、まだ授業は始まっていなくて、神経質な先生の顔を思い出してわたしはほっと息をつく。

「ぼくの授業は聞いてもらわなくてもかまいません、ただそこにいてくれたら」

教室に入ってくるなり発された先生の言葉に従って生徒たちはいっせいに話し始める。昨日の飲み会、彼氏のグチ、こないだ持ち帰った他大の女子について。一人一人の声は普通の大きさなのに、それが集団になるとびっくりするくらいうるさくて、わたしの耳に先生の声はもう聞こえない。
机に広げた筆記用具とノートと教科書を両手で抱えて一番前の席へ、荷物だけ置いてわたしは後ろ、つまり教室全体を振り返る。今ここでわたしが「うるさーい!」って叫んでも、多分かき消されて誰にも届かない。だったらどうすればよいか、みんなの口を噤ませて先生の授業を聞くために、わたしはいったいどうすればよいか。最適解を見つけたからわたしは、まず教室中段、向かって右端の男子に狙いを定める。
階段状の教室を駆け上がりながら、驚いた先生の板書の手が止まるのを背中で感じる。先生わたしなにをしてでも、先生の授業、ちゃんと聞きたいんです。

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