2013年2月14日木曜日

20130214-01

春になると柔らかくなるのはチョコレートも猫も人間も同じ、つまりわたしも御多分に洩れずそろそろとろとろ柔らかくなる。やわらかくてフワフワしたものをわたしは確かに好きだけれども、自分がそうなることはあまり好きではない。炊き損ねたごはんみたいにまわりがベチャっとしているのに不快な芯が残った感じ、あの感じが一番好きだ。くにゃりと溶けだすわたしの芯は頼りないけど抗えない、重力に抗えない。

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「アンダーグラウンドと地下鉄」のC3出口がどこに繋がっていたのか今では全く思い出せない。高いものではなく、珍しいウイスキーばかり好んで飲んだ田中さんは技術職の人間で、仕事の話はさっぱり分からなかったけれど、仕事と奥さんが大好きだということが言葉の端々からにじみ出ていた。必ず部下か友達を連れてくる安田さんは、いつもよっぱらうとその部下や友達との出会いを熱く語った。わたしが好感を覚えたおじさんたちはみんなそれぞれに仕事と家族を愛していて、女の子に会いにくるのではなくお酒を飲んで話をしに来ている人ばかりで、そういう人は大抵郊外に住んでいた。一日をリセットするのだろうなあと思いながら、わたしは口を挟まず無言で相槌だけを打った。

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春について考えている、わたしにとって憂鬱な季節が今年もひたひたやってくる、とても怖い。
桜の木の下には死体が埋まっていて、わたしは上履きでそれを踏みしめる。
今年の春は怖くないとよいな、と思う。多分きっと、怖くない。

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