2014年6月23日月曜日

20140623-03


ここに触ったらどうなるんだろうなって好奇心を抑えられなかったのは小学生まで、
正確に言うと、ここ舐めてみたらどうなるんだろうなって好奇心を抑えられなかったのは小学生まで。

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一人乗りのリフトは直角に曲げられたスプーンみたいな単純な形で、朱色に塗られていたはずの表面の塗装はほぼ剥げていて鉄の色をしていた。わたしのひとつ前のリフトに乗った翔子ちゃんは遥か遠く、さっきまでこちらを振り向いて大声でおしゃべりをしていたけれど、もう今は前を向き、頂上に着くのを大人しく待っている。
何度リフトに乗ったってスキー板が外れて落ちてしまうという想像を止めることはできなくて、例え落ちたとしてもこんな田舎のスキー場の緩やかなコース、板なんてすぐに取りに行けるのだけれど、それはとても屈辱的で、絶望的なことに思える。
見下ろすと、こんもり積もったままの雪にスノーモービルの跡が見える。誰かがストックやスキー板を落として係の人が取りに行く場面もこうやってリフトに乗っていて見たことがある、だとしても、小学生のわたしにもプライドはあるし、そんなふうに目立ってしまうのはわたしが意図するところではないし、だからわたしは足の金具が万が一外れて落ちないことをひたすら祈る。祈りながらも左右の板をハの字にしたり逆ハの字にしたりして、こすりあわせて雪を落とす。これ以上強くぶつけると板がぽろりととれるかもしれない、どきどきするくらいならしなきゃいいのに、どうしてもやりたくなってしまう。

気温が例え一桁であっても散々厚着をさせられているから全然寒くもなんともなくて、なんとなく退屈になり体右側だけにある手すりに腕を組むようにして寄りかかる。親指だけが別になっているタイプの手袋は分厚くてガサガサしていて、ストックだって握りにくいけどしかたがない。翔子ちゃんの後頭部をぼおっと見ていたら頭の向こうに頂上が見えて、ああ、もう3/4くらいまできたな、と思う。

急に、寄りかかっている手すりの存在が気になった。鉄としか表現できないそれは、わたしのお尻に滑車の振動を直接ガタガタと伝える。多分今とても冷たくなっているであろうそれの温度をわたしのてのひらは感じることができなくて、だからわたしは、塗装が剥げむき出しになった鉄に舌を伸ばす。


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