2014年7月19日土曜日

20140719-01

わたしの家から那覇空港へ行く道の途中には泡沫公園という公園があって、地図で見るたびに「ほうまつこうえん」と口に出して言う癖がつくほど気になる存在だった。井草駅前を通る大きな幹線道路沿いのその地図の右下、『この先』という意味の矢印についている「泡沫公園」という四文字を、わたしは井草に越してきてからここ一年、ずっと飽きずに見ている。

井草から京急蒲田を通り那覇空港へ、電車ではなく自転車を選んだのはお姉ちゃんだった。
飛行機の時間が決まっているのに行ったこともないかなり長距離の道のりを自転車でなんてばかげている、ばかげているけどわたしはお姉ちゃんに逆らうことができないように成長してしまっているし、お姉ちゃんは一度言い出したら聞かない人で、だからわたしは荷物をリュックに詰め、ママチャリのカギを用意する。
とは言ってもお姉ちゃんが空港への交通手段として自転車を採用したのは当日の朝で、つまりわたしは想定していたよりもずっと早く家を出なければならず、飛行機が降り立った向こう、東京で久々の恋人に会うのにすっぴんで家を出ることになった。だからせめてリュックにいつも使っている化粧品を、持っていくつもりじゃなかったベースからアイシャドーまで手当たり次第に全部詰めることにした。詰めている間もおねえちゃんはイライラしながらわたしを見ていて、プレッシャーのせいでマスカラやアイライナーがわたしの右手からぽろぽろ落ちる。

空港近く、大きな幹線道路と幹線道路に挟まれた三角州のような場所に泡沫公園はあった。わたしたちの自転車はかなりのスピードを出していたから、わたしはそれを横目でチラリとしか見ることができなかったけれど、その三角形の狭い土地にはわたしの胸くらいまである小麦のような植物が青々と茂っていて、公園というよりただの放置された空き地だった。
「ねえお姉ちゃん見た? 泡沫公園、本当に泡沫だった!!」
「なに?」
「ほうまつこうえん!」
「あっそ」
お姉ちゃんが全然興味を示さないのは泡沫公園の泡沫さ故なのか、わたしのせいで出発時刻が遅れ飛行機の搭乗まで時間がないせいかわからなかった。『泡沫公園っていう公園があるんだけど本当に泡沫だったの』、恋人に会ったら第一声でそう報告することを決め、わたしは空港まで残り15キロ、ひたすら自転車のペダルを漕ぐ。

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